社員を1人増やす前に、利益と資金繰りで何を確認すればいい?
最終更新日:2026年〇月〇日(制度・料率は2026年10月時点で確認)
社員を1人増やす前に確認したいのは、「①年間の総人件費(給与以外の会社負担を含む)」「②その人件費を賄うのに必要な粗利と売上」「③人を増やしてから12か月のうち、現預金がいちばん少なくなる月の残高」の3つです。給与の額だけで判断すると、社会保険料の会社負担や賞与、売上が入金されるまでのずれによって、資金が想定より早く減ることがあります。利益で賄えるかどうかと、資金が持つかどうか。人への投資では、この2つを別々に確認します。
なぜ「給与の額」だけで判断すると危ないのか
1. 会社が負担する保険料がある
社員を雇うと、給与のほかに会社が負担する保険料が発生します。主なものは、厚生年金保険料、健康保険料・介護保険料、子ども・子育て関係(支援金・拠出金)、雇用保険料、労災保険料です。
会社負担分を合計すると、事務系の会社でざっくり給与の16%前後になります。これは2026年度の埼玉県の例で、40歳以上65歳未満の方は介護保険料が加わるため約16〜17%です。業種・地域・年齢によって変わりますし、料率も年度ごとに見直されます。実際に計算するときは、最新の一次情報で確認してください。
これらの保険料は賞与にもかかります。「給与の何倍」と一律に決めるより、自社の条件で一つずつ積み上げたほうが確かです。
2. 給与以外にもお金が出ていく
求人広告や紹介手数料といった募集費のほか、入社後の研修、パソコンや備品、交通費もかかります。
3. 利益と資金ではタイミングがずれる
給与は入社した月から毎月支払います。ところが、新しい社員が売上を生むまでには立ち上がりの期間があります。売上を計上してから入金されるまでに1〜2か月かかる会社も多いでしょう。損益計算書の上では1年で元が取れる人への投資でも、最初の数か月は資金が先に出ていくことになります。
人を増やす前に確認する3つの数字
- 年間の総人件費=月給×12か月+賞与+会社負担の保険料+募集費・教育費など
- 必要な追加粗利と売上=年間の総人件費÷粗利率で、「いくら売上が増えれば人件費を賄えるか」を出します。
- 12か月の資金繰り表での最低残高=人を増やした場合の給与・保険料・募集費を資金繰り表に入れ、現預金がいちばん少なくなる月の残高が、自社で決めた下限を下回らないかを確認します。賞与の支払月や納税月、借入の返済が重なる月は、とくに気をつけて見てください。
具体例(数字はすべて架空の例です)
年商3億円、粗利率30%の会社が、月給30万円・賞与年60万円の社員を1人増やすケースです。会社負担の保険料は、計算を簡単にするため給与・賞与の16%と仮定します(実際の負担率は業種・地域・年齢で変わります)。
| 項目 | 金額(例) |
|---|---|
| 給与(30万円×12か月) | 360万円 |
| 賞与 | 60万円 |
| 会社負担の保険料(420万円×16%と仮定) | 67.2万円 |
| 募集費・教育費など(仮定) | 50万円 |
| 年間の総人件費 | 537.2万円 |
必要な追加粗利は537.2万円です。粗利率30%なら、必要な追加売上は約1,790万円(537.2万円÷30%)。年商の約6%にあたります。
資金の先行支出も見ておきます。立ち上がりに3か月、売上の入金に2か月かかると仮定すると、最初の約5か月は売上の入金がないまま人件費だけが出ていきます。月々の給与と保険料は約34.8万円(30万円+16%)なので、5か月で約174万円。募集費・教育費など50万円を加えると、約224万円が先に出ていく計算です。
この例で判断の分かれ目になるのは、「1年後に約1,790万円の売上増を見込めるか」と「約224万円の先行支出と賞与月を含めても、12か月の最低残高が下限を下回らないか」の2点です。どちらかが厳しそうなら、人を増やす時期をずらす、借入を先に相談しておく、業務の一部を外注で始める、といった選択肢を並べて比べることになります。
よくある質問
Q1. 人件費は「給与の何倍」と考えればいいですか?
一律の倍率で決めることはおすすめしません。会社負担の保険料は業種・都道府県・年齢で変わりますし、賞与の有無や募集費でも総額はかなり動きます。上の例のように項目ごとに積み上げると、判断の根拠を社内や金融機関に説明しやすくなります。厚生労働省の「社会保険適用拡大 特設サイト」には、社会保険料の事業主負担分を試算できるページもあります。
Q2. パート・アルバイトなら社会保険料はかかりませんか?
労働時間や会社の規模などの条件を満たすと、パート・アルバイトの方も社会保険の加入対象になります。対象となる企業規模は段階的に広がっているため、最新の要件を厚生労働省の「社会保険適用拡大 特設サイト」で確認してください。
Q3. 人を増やすための資金を、借入で準備してもいいですか?
運転資金として借入を検討する、という選択肢はあります。ただ、返済の原資になるのは、増やした人が生み出す利益です。借入の返済予定も12か月の資金繰り表に入れて、「売上の立ち上がりが遅れた場合でも返済できるか」を確かめておく。そのうえで、資金が必要になる前に金融機関へ相談するのが基本です。
この記事を書いた人
税理士・中小企業診断士 木浦洋温(きうら ひろみつ)
関東信越税理士会所属。木浦洋温税理士事務所(埼玉県戸田市)代表、合同会社K support代表社員。年商1億円を超えるオーナー企業を中心に、月次決算や資金繰り、事業計画に携わり、人と設備への投資や借入を数字で判断するお手伝いをしています。
公開日:2026年〇月〇日/最終更新日:2026年〇月〇日(制度・料率は2026年10月時点の情報です)
※本記事は一般的な考え方をまとめたものです。実際の判断は、会社ごとの状況によって異なります。
出典(2026年10月確認)
- 全国健康保険協会「令和8年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(埼玉支部)」(健康保険料率9.67%、介護保険料率1.62%、子ども・子育て支援金率0.23%、厚生年金保険料率18.300%、子ども・子育て拠出金率0.36%) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/assets/R8_11saitama.pdf
- 厚生労働省「令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内」 https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001672913.pdf
- 厚生労働省「令和8年度の労災保険率について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihoken06/rousai_hokenritsu_kaitei.html
- 厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」 https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/
